森田療法

「森田療法」というのは、今から100年ほど前に、森田正馬先生によって生まれた、

今でいう「神経症」を治す精神療法

です。

その中には、現代日本に大変多いうつ病・パニック障害・不安障害も含まれます。

うつ病・パニック障害・不安障害も含まれるということは、森田療法はうつ病もパニック障害も不安障害も治るの?

と思われるかもしれません。

森田療法は、うつ病もパニック障害も不安障害も別々の原因で起こっているとは捉えません。

これらの精神症状の根本的な原因が同じところにあると考えています。

この考え方が森田療法の特徴になっています。

森田療法は、神経症を病気ではなく、

誰にでもある「精神的な傾向」の度が過ぎたものである

という捉え方をします。

単に度が過ぎたものであるので、異常ではないということです。

ですので、「森田療法」では「神経症」自体を治療することはありません。

では、何を治すのかというと

こんがらがってしまった心理機構

です。

表現を変えると、心の流れ、思考の流れ、精神の流れが悪くなってしまっているのが「神経症」であって、その流れをよくするといううのが治療になります。

当時の「神経症」の分類

「森田療法」は100年ほど前の「精神療法」ですので、今と「神経症」の分類が違います。

当時の分類では主に3つの種類に分けていました。

普通神経質」「発作性神経症」「強迫観念症」です。

1.普通神経質

「普通神経質」というのは

自分の健康状態が異常であり、病気に違いないといつも不安でしょうがない

という症状のことです。

不眠症

手足の震え

胃腸のトラブル

頻尿恐怖

心身の疲労感

などの症状に過剰に囚われる症状です。

これらの症状というのは、誰しも日常で経験する症状です。

しかし、普通神経質の方は、自分の症状が異常であると感じ、みんなが日常的に体験しているということが受け入れられません。

そして、普通神経質の方は、実際には病気ではないのですが、自身では絶対に自分の症状は病気であると確信しているために、さまざまな病院で検査・診察を受けています。

しかし、病気ではないので、異常が見つかりません。

病院では自律神経失調症といわれることが多いです。

ですが、納得することができずに、何か治療法があるのではないのかと果てのない探求を続けてしまいます。

この普通神経質は病気ではないので治ったということは起こらないのですが、この症状をなくすには

症状を治そうとすることをやめる

しかありません。

もともと病気ではないのに、病気であるとしているために症状が出ているので、治そうとすることをやめることでその症状もなくなります。

逆にいえば、治そうとすることで病気という幻想を作り上げてしまっているということです。

2.発作性神経症

「発作性神経症」は今で言う「パニック障害」に相当します。

パニック障害というのは、

呼吸困難

動悸

発汗

めまい

ふるえ

などの不安発作に襲われ、死んでしまうのではないか?という恐怖感に見舞われてしまう症状です。

多くの方は救急車で病院に行きますが、検査上の異常がないという経験をします。

また、この経験によって、またこのようになってしまうのではないかという予期不安に襲われ、外出恐怖・乗り物恐怖になってしまうこともあります。

3.強迫観念症

強迫観念症というのは、今で言う対人恐怖症強迫神経症に該当します。

対人恐怖症にはさまざまな症状があります。

赤面恐怖

視線恐怖

自己臭恐怖

発汗恐怖

などです。

強迫神経症というのは、

不潔恐怖

確認強迫

などです。

なぜ神経症になるのか?

なぜ神経症になるのか?

神経症というのは、誰でもなるわけではありません。

神経症になりやすい人には、ある心理傾向があると森田先生は考えました。

その神経症になりやすい心理傾向を

ヒポコンドリー性基調

と言います。

ヒポコンドリー性基調とは

ヒポコンドリー性基調というのは

①自分の心身に病的なものがあるのではないかと不安になる

②そのために、自分の人生がダメになってしまう

という精神状態になりやすい精神的傾向を言います。

ヒポコンドリー性基調は言い方を変えれば

より良く生きたいという気持ちが強い性質

と言うことができます。

より良く生きたいから、自分の心身の状態が気になり、なるべく良い状態に保ちたいという思いが湧いてきます。

この性質が強ければ強いほど神経症になりやすくなります。

ヒポコンドリー性基調と欲望の過大

以上のようなヒポコンドリー性基調による「より良く生きたい!!」という思いを

欲望の過大

と、森田療法では言っています。

ヒポコンドリー性基調の方が神経症になりやすいのは、欲望の過大が原因です。

人が神経症の症状に苦しむのは、より良く生きたいという欲のためです。

そもそも、より良く生きたいという欲がなければ、どんな悩みも苦しみもありません。

より良く生きたいからこそ、より良く生きれない現状が苦しくなります。

また、この欲望の過大は、完全主義・完璧主義という一面も生み出します。

より良く生きたいという気持ちが強すぎるために、少しのダメな部分も許すことができません。

その少しのダメな部分があるために、自分の人生が良くないと思ってしまいます。

その少しのダメな部分がなくなれば、自分の人生が申し分のない良いものになると思ってしまいます。

しかし、この思考の迷路自体が、神経症を生んでいます。

ヒポコンドリー性基調が元になる精神症状

森田療法でいう神経症は今で言う

対人恐怖症

強迫性障害

パニック障害

赤面恐怖症

書痙

などです

現代の精神病と言われるもののかなりの範囲のものが、このヒポコンドリー性基調が元になって起こっています。

ここで重要なのが、これらの神経症が病的な精神的な要因が原因ではなく、

より良く生きたいという気持ちが強いという精神的傾向

が原因となっているということです。

病的な精神的な傾向があるから、神経症になったのではないのです。

よりよく生きたいという人間としての強い思いが、方向性を間違えてしまったために神経症になってしまっているだけです。

ですから神経症の方は、病的でも精神的に弱いのでもありません。

ヒポコンドリー性基調は優れた精神的傾向

ヒポコンドリー性基調の方は、勉強ができたり、仕事ができたり、趣味の世界を突き詰めたりと、方向性が建設的な方向に向いていれば大変優れたことができます。

つまり、集中力が人よりも優れているということです。

ですから、元々とても優れた精神的な傾向です。

しかし、その集中力が自分の心身の問題に向くと、神経症になります。

なぜかといえば、

自分の心身の問題は、努力で解決ができないから

です。

神経症の方は、自分の感情や浮かんでくる思考内容や心臓の鼓動や汗のかき具合や排便排尿などをコントロールしようとします。

しかし、これらの現象はコントロールができません。

できないのに持ち前の集中力でなんとかしようとします。

ですがどうしてもコントロールができない。

でも、コントロールしたい

この絶対に解決できない問題を解決しようとしてしまうところに、神経症が生まれます。

ヒポコンドリー性基調は元々は、優れた精神的な傾向です。

その方向性を間違えないことが大切です。

「ヒポコンドリー性基調」+「精神交互作用」=「神経症」

精神交互作用というのは、

精神(思考・感覚・感情)の働きは、意識と注意を集中すればするほど、強くなっていく

という精神作用の特徴のことです。

例えば身近な例ですと、

蚊に刺されたのに気が付くと途端に痒くなる

不快な音に気がついたら、気になって気になってしょうがない

お腹が減ったのに気がついたら、お腹が減って減ってしょうがなくなる

などです。

神経症の原因には、この精神交互作用の働きがからんでいます。

神経症の症状は

体の嫌な感覚

嫌な思考

嫌な感情

を自分でどうしようもなくなってしまい翻弄されてしまうというものです。

心臓のドキドキ、不眠、赤面、自己否定、自己嫌悪、お腹の具合など、はじめはどうという事もないものでも、それを気にしていく内に、精神交互作用の影響でだんだん強くなり、自分ではどうすることもできないものにまで成長してしまう。

これが、神経症の病理です。

神経症は、自分の思考・感情・感覚を気にしやすい性質であるヒポコンドリー性基調と、精神交互作用が組み合わされることで起こります。

森田療法の治療原理

では、森田療法ではどのようにこの神経症を治すのかというと、

ヒポコンドリー性基調と精神交互作用の問題を解決すること

によってです。

森田療法では、このことを

「あるがまま」を体得させる

と言っています。

言い方をかえれば、

①思考・感情・身体という自然現象を自然のままにさせる(精神交互作用を解決)

②治すのをやめさせる(ヒポコンドリー性基調を解決)

ということになります。

精神交互作用とヒポコンドリー性基調の解決方法

では、どのように精神交互作用とヒポコンドリー性基調の問題を解決すればよいのでしょうか?

それには、

何故、思考や感情を自然のまま放っておけないのか?

何故、治そうとしてしまうのか?

を考えるとわかります。

それは

今が幸せでなく、充実していないから

です。

この今幸せでない、今充実した毎日を送れていないということが、根本的な問題です。

なぜなら、幸せな感じ・充実感がないからこそ、それを手に入れるために、思考や感情をコントロールしようとし、自分の症状を治そうとしているからです。

ですから、今が幸せである状態・充実した毎日を送れている状態になることが、解決方法になります。

どうすれば幸せになり充実した毎日を送れるのか?

森田療法は、心理療法でありながら、その枠を飛び越えて、人が如何に生きるべきかという生き方の問題をも解決します。

それは、何故かといえば、森田療法が

自己実現の道を説いているから

です。

森田療法では、神経症の解決は自己実現にあると考えています。

自己実現をすることで、幸せになり、充実した毎日を送れるようにする。

そのことによって、神経症を治します。

では、どのように自己実現をしていくのか?

まずは、「生の欲望」についてお話させて頂きます。

生の欲望とは

森田療法におきましては人間の欲について、深い洞察の上で「生の欲望」と呼んでいます。

生の欲望というのは

人間が生きるための欲望

のことです。

そして、この生の欲望には二面性があり、これが人を自己実現にも導くし、同時に苦しみを生む原因になっていると考えています。

生の欲望の二面性

生の欲望には二面性があります。

一つの側面は

より良く生きようとする向上発展の欲望

もう一つの側面は

より良く生きようとするがためにおこる、それができないのではないのかという恐れの側面

です。

人間は何かを実現したいと思っています。

そして、そう思うがゆえに、それができなかったらどうしようと恐れ、不安になります。

逆に言えば、何も実現したいと思っていなければ、恐れも不安もありません。

神経症の方は、この生の欲望が強すぎるために、恐れや不安もそれに伴って強くなってしまっている状態です。

向上発展の欲望に意識を向けて自己実現

では、どのように神経症を治し、自己実現をしていくのかといえば、

恐れや不安ではなく、向上発展の欲望に意識を向けていく

ことをしていきます。

神経症の方は、生の欲望の内の不安や恐怖の面に意識を向けています。

しかし、その反面、向上発展の欲望が強くあります。

人間はポジティブとネガティブどちらかにしか意識を向けることが出来ません。

ですから、向上発展の欲望に意識を向けることで、自己実現の道へ戻っていくことが出来ます。

目的本位の生き方

森田療法では、向上発展の欲望に意識を向け、自己実現をしていく生き方を

目的本位

と言っています。

神経症の方だけでなく、人間はともすると、不安や恐怖に負けて自分の中の自己実現要求を無視してしまいます。

森田療法で言っている目的本位は、神経症治療の概念に留まらず、人間全体の自己実現に向けた概念です。

目的本位に生きることが、神経症を治すことであり、より良い人生を生きることにつながっていきます。

森田療法のおすすめの本

森田療法

森田療法 著 岩井 寛

岩井 寛 氏について

岩井 寛氏は、精神医学・精神病理学を専攻するお医者様です。

森田療法は、様々なお医者様が実施していますが、私は、岩井 寛氏の森田療法が一番好きです。

それは、森田療法を自分で実施・実践し、自己実現の道を進んだ方だからです。

ですので、この本からは、実践者であるということからくる、説得力が感じられます。

「森田療法 著 岩井寛」を一読して欲しい理由

森田療法は、精神療法という面もありますが、自己実現への道を説くものです。

そして、岩井 寛氏はこの点を強調します。

不安や恐怖や葛藤にとらわれて、自己実現できなくなってしまっている状態から、自分が本当にやりたいことを実現していけるようになること。

その実現の道をこの本では、学ぶことが出来ます。

ですから、精神疾患に悩まれている方だけでなく、

自分の人生を生きることができていない

なぜだかやりたいことができない

自分のやりたいことがわからない

方にもぜひ読んで頂きたい本です。

また、岩井寛氏は、ガンで亡くなられているのですが、最後には目が見えず、手もほとんど動かせない状態でした。

そして、この本は、字を書く事ができなくなっていた岩井寛氏の、口述筆記による著作です。

つまり、死の直前まで、語り続けた言葉をまとめたものです。

この本からはその迫力が伝わってきます。

私は、この本を10年程前に購入しましたが、今でも読み返します。

きっと、私はこの先も、この本を読み返すでしょう。